公衆衛生学と経済

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策経済政策で人は死ぬか?
その答えは当然Yesだろうとわかってはいましたが、その答えを出すのがこの本の目的ではなく、その答えに至るきちんとした証拠を示すのが目的…だと思う。こんな内容。

  • 第1部 過去の「自然実験に学ぶ」
    • 第1章 ニューディールは人々の命を救ったか
    • 第2章 ソ連崩壊後の死亡率急上昇
    • 第3章 アジア通過危機を悪化させた政策
  • 第2部 サブプライム問題による世界不況に学ぶ
    • 第4章 アイスランドの危機克服の瑣末
    • 第5章 ギリシャの公衆衛生危機と緊縮財政
  • 第3部 不況への抵抗力となる制度
    • 第6章 医療制度改変の影響の大きさ
    • 第7章 失業対策は自殺やうつを減らせるか
    • 第8章 家を失うと何が起こるか
    • 結論 不況下で国民の健康を守るには

IMFやキャメロンさんが悪魔にしか見えなくなります…。
不況のせいで自殺や病気が増えるわけではなく、不況に対する経済政策が悪いと自殺や病気が増えるのだよ、というお話。資本主義への移行やサブプライム問題のせいではなく、その後の政策の違いで人命が失われたり、助かったりしていると。

ロシアの話、あとアイルランドの話が印象に残りました。
ソ連は

職場には病院や保育所が併設されていたし、社会保護制度も充実していた。
両親は子供を預け、安心して働くことができたし、仕事も比較的楽なものが多かった。
(中略) 収入は安定していたし、給料以外にも多くの利点があった。
社会保護は労働者とその家族すべてに無料で提供されてきた。

という感じだったそうで、こう書かれると「いいじゃん」って思っちゃいますね。もちろん、いい面だけ取り出して説明してるからですけど。
それにしてもロシアで職を失った人たちの多くがアルコール依存症になったという話。これはどこの国でもあるみたいだけど、ロシアでは工業用のアルコールを飲んでたとかもう想像を絶する話の数々。

アイルランドはIMFの指示を拒否して福祉を堅持したという話だけでも凄いと思いますが、憲法改正の方法はさらにびっくり。

一般市民のなかから立候補して選ばれた25人の代表が、インターネットを利用して広く国民の意見を取り入れて(クラウドソーシング)まとめたのである。主眼に置かれたのは、天然資源の管理強化と、政治家と銀行の癒着の解消だった。そしてこの改正案は、これまたインターネット上で2012年10月に国民投票にかけられた。ソーシャルメディアのアプリケーションを利用して、改正案に関する六つの質問に答えるという方法で、国民の3分の2が草案を新憲法の土台とすることに賛成した。

2012年にこんな方法で憲法改正が行われたなんて。すごいなぁ。

データを見れば保険医療支出を減らして緊縮財政なんて馬鹿げているのに何でこんなことを?と思うけど、それは結論の章に

統計学者のW.E.デミングは、「神の言葉は信じよう。だがそれ以外の者は皆データを示すべきだ」と言ったが、政治家は事実や数字よりも、先入観や社会理論、イデオロギーに基づいて意見を述べることが多い。

とのこと。
こんな話前にも聞いたような…と思ったら、「学力の経済学」にも出てた話。教育に関しては「アメリカではデータに基いた政策が選択されている」ようなことが書かれていましたが、全てにおいてそうなっているわけではないのですね。

しかし、保険医療支出を削るのはいかんと言っても財源は?基本的には「裕福な人への増税が柱」ということだけど、裕福な人は逃げてっちゃったりしないのかしら。でも裕福層にとっても「税金が高くなっても、それでホームレスが減り、病院が空き、安全な街になるならwin-win」て気もします。どうなんだろ。

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