生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後 (岩波新書)タイトルが「生きて帰ってきた男」なのでものすごい戦争体験記っぽいですが、どちらかというとその前後の話に重きが置かれた本。「ある日本兵の戦争と戦後」の方が本の中身を想像しやすいのではないかと思う。目次を見ても

  1. 入営まで
  2. 収容所へ
  3. シベリア
  4. 民主運動
  5. 流転生活
  6. 結核療養所
  7. 高度成長
  8. 戦争の記憶
  9. 戦後補償裁判

5章から先はシベリアから帰国した後の話でこれが半分以上。
シベリア拘留体験者(筆者の父)へのインタビューをもとに書かれた本です。あとがきにもあるように「戦前および戦後の生活史」が描かれている点が新しい。しかも、いわゆる(?)庶民の生活がどんなだったか、どんなことを考えていたか、が書いてあるのが新鮮でした。今までに読んだ現代史の本は数冊ですが、一般庶民の生活が生の声と共に書かれた本はなかなかないのではないかしら。
もちろん色んな考え方をもつ方がいらっしゃるでしょうから、あくまでその中の1つではありますが、天皇陛下のこと、戦争のこと、国のこと、をこういう風に捉えていたというのは読んだことがなかったのでかなり興味深かったです。しがらみのない人の素直な気持ち、というか。
好景気だった頃も人によっては実感がなかったとか、教科書や普通の(?)歴史書を読むだけではなかなか気付けないところに目が向きました。

筆者の言葉なので自画自賛的な面はあるかもしれないけど、お父様は「一環して冷静かつ客観的に」語っていたそうで「こういう性格の人物は、語り手として信用がおける」と述べた上で、

しかし同時に、こういう人物が、自分の経験を書き残すことはめったにない。個人史を書き残す人間は、学歴や文筆力などに恵まれた階層であるか、本人に強烈な思い入れがあるタイプが多い。前者は一部の階層からの視点になるし、後者は客観性に欠ける傾向がある。父はそのどちらでもない。そして実際に、彼自身は、自身の経験についてほとんど何も書き残していなかった。

と、あとがきにありました。
うん、確かに。

戦後補償の話は不勉強であまりわかっていないのですが、この辺りもきちんと知っておいた方が良さそうだな、とも思いました。なかなか客観的に書かれた本ってなさそうですが。両論の(つまり複数の)本を読むと良いのかしら。