残像に口紅を (中公文庫)3ヶ月程前に妹に会ったときに貸してくれた本。

「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまった。世界からひとつ、またひとつと、ことばが消えてゆく。愛するものを失うことは、とても哀しい…。言語が消滅するなかで、執筆し、飲食し、講演し、交情する小説家を描き、その後の著者自身の断筆状況を予感させる、究極の実験的長篇小説。

おぉ、これは面白い試み。でも読み始めてすぐは正直そんな面白くないんじゃないかという気がしてたのです。目次見て、なんとなく大勢に影響のなさそうな音を消してる感じがしたのと、最初の方はあまりに自然な文章だったのと、で。
でも物語が進んで音(オン)の消失によって登場人物が消失するだけでなく、言葉遣いへも影響してくるとどんどん面白くなってきます。語尾の「よ」「わ」が、二人称の「あなた」が、なくなっていくと話す言葉が変わって印象も変わる。そんな変化がとても面白い中盤。いよいよ音が少なくなってくると、「こんなに少ない音だけでも文章が作れるものなのか」という驚きの連続。「あぁ、いよいよ文章に無理が出てきたな」と思わせた後で「え、まだこんな普通(っぽい)文章書けるの」と思わせるからすごいです。最後の最後は物も音も減ってく世界で主人公の動きたけが描かれる。結局最初から最後までとっても楽しめました。

しかし情欲シーンの下りがすごいですね…。遠回しな言い方になってるから返ってエロい、という安っぽい表現はもったいない。電車の中で読むのはなんとなく憚れました。